『外套』(がいとう、Il tabarro )は、ジャコモ・プッチーニの作曲した全1幕のオペラである。
パリ・セーヌ河畔に暮らす荷物船の老船長が、若い妻を巡る争いがもとで部下の若者を殺すさまをショッキングに描く。傾向の異なった3つの一幕物オペラを連続して同時に上演する「三部作」の最初の演目として、1918年12月14日、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場で初演された。
外套の登場人物
ミケーレ(バリトン)、セーヌ川に浮かぶはしけの船長、50歳(年齢は台本での指定による、以下同)。
ジョルジェッタ(ソプラノ)、その妻、25歳。
ルイージ(テノール)、ミケーレのもとで働く沖仲仕、20歳。しばらく前からジョルジェッタと不倫関係にある。
イル・ティンカ(テノール)、酒癖の悪い沖仲仕、35歳(「ティンカ」とはコイ科に属する淡水魚で、彼についたあだ名)。
イル・タルパ(バス)、沖仲仕、55歳(「タルパ」はやはりあだ名で、モグラのこと)。
ラ・フルゴラ(メゾソプラノ)、その妻、50歳(「フルゴラ」はあだ名で、フェレットのこと)。
流しの歌唄い(テノール)
合唱
外套のあらすじ
時と場所: 1910年、パリ・セーヌ河畔に浮かぶはしけの甲板上
夕方、船長ミケーレはぼんやりと日没を眺めていたが、妻ジョルジェッタに「仕事も終るので沖仲仕たちにワインを振舞ってやれ」と命令する。ミケーレは妻に接吻しようとするが、妻が顔をそむけるので気を悪くしたまま船倉に降りてしまう。
沖仲仕たちが仕事を終えて戻ってくる。ジョルジェッタは夫の言いつけ通り皆に酒を勧める。若いルイージは、居合わせたオルガン弾きにワルツを奏でさせる。
はじめティンカが、そしてルイージが妻ジョルジェッタと踊る。ちょうどルイージが彼女と固く抱き合って踊っているところで船長ミケーレが甲板に上がって来て、皆は気まずい雰囲気となる。今度は流しの歌唄いが河岸に現れ、「ミミの物語」を歌う。
ルイージはミケーレ船長に「はしけがルーアンまで行ったところで自分を下船させてほしい」と頼むが、ミケーレに「あそこはもっと景気が悪いというぞ、このまま俺の船に乗っていろ」とたしなめられその言葉に従う。
ミケーレが船室に去った後、ルイージとジョルジェッタだけが残される。ジョルジェッタは「なぜ船を下りたいなんて言ったの」とルイージに訊く。彼は「君をこのまま船長と共有していくなんて僕には耐えられないと思ったんだ」と言う。2人は今晩また逢引することを約束する。ルイージはいったん近くに隠れ、ジョルジェッタが船長が寝静まったことを確認して灯すマッチの炎を合図に再乗船することにする。
甲板に一人残ったジョルジェッタのところへ船長ミケーレが戻ってくる。ミケーレは妻に向かってやさしく「お前は最近すっかり変わってしまった。昨年の今頃は夫婦2人と赤ん坊で幸せだったのに、あの子が死んでしまってから……」と言いかけるが、亡き子のことを思い出したくないジョルジェッタは話を中途で遮り、疲れたと言って船室に去る。
妻の姿が消えたときミケーレの態度は豹変する。ミケーレは「淫売女め」と吐き捨て、妻が浮気しているのは確かなのだが、誰が相手か判らない、と独り詮索を始める。タルパは年寄り、ティンカはただの呑み助だ。ルイージは疑わしいが、今さっき下船したいと言ったばかりだ。相手が誰であっても、見つけ次第俺はこの手でそいつを殺してやる。ミケーレはこう歌った後、自分のパイプにマッチで火をつける。
漆黒の闇の中、その炎をジョルジェッタの合図と早合点したルイージが船に飛び乗ってくる。ルイージはたちまち船長ミケーレに捕えられる。ミケーレがルイージの首を絞めながら「正直に白状したら許してやってもいいぞ」と言うので、ルイージは苦しい息の下で「僕はジョルジェッタを愛している」と告白する。ミケーレは更に強くルイージの首を絞めつつ、何度もその言葉を繰り返させ、最後には絞殺してしまう。
不穏な気配を感じたのかジョルジェッタが甲板に上がってくる。ミケーレはルイージの死体を素早く自分の外套の下に隠す。ジョルジェッタは言う。「不安で眠れないの。貴方のその外套で私を包んで欲しいわ。昔貴方は言ってたじゃない、『人は皆、一枚ずつの外套を持っている、時にはそれに喜びを包み、時には悲しみを……』」。その言葉を受けてミケーレは冷たく言い放つ。「そして時には犯罪を、だ。さあ入って来い」。船長ミケーレは外套を広げ、ルイージの死骸を妻に見せる。驚愕のあまり絶叫するジョルジェッタをミケーレは引き掴み、ジョルジェッタの顔を死体の顔に強く押し付けて、幕。
この記事へのコメントはありません。